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校長雑感ブログ

12月17日(火)「アリとキリギリス」の立場になって考えると

〇先週の金曜日の午後、1学年4クラスを対象に外部から講師を招聘した授業研修会を行いました。今回の講師は菊池省三氏で、全国各地で教員同士の学びの場「菊池道場」を主宰し、これまで文部科学省「『熟議』に基づく教育政策形成の在り方に関する懇談会」委員も務められています。

〇元小学校教員で、著書は多数あり、「ほめ言葉のシャワー」「成長ノート」「白い黒板」など、教員ならば一度は聞いたことがあるキーワードを自ら実践されてきた方です。お住まいは北九州市なので、先週一週間は柏駅のホテルに連泊し、連日柏市や周辺市の小中学校へ講師として出向き、その最後の研修が本校でした。

〇午前中は富勢東小で授業を行い、富勢東小の教員も午後3時からの本校での授業振り返りに参加していました。1学年4クラスの4組で菊池先生が飛び込み授業(これまで生徒とまったく人間関係のない指導者が生徒たちと心を通わせつつ、1時間の目標達成を目指して行う)を展開し、それをオンラインで他の1~3組までつなぎ、各担任が4組と同様の課題のワークに取り組みました。

〇題材はイソップ物語で有名な「アリとキリギリス」でした。少しあらすじを確認しますと、「夏の暑い盛りに、アリが汗水ながして餌を巣に運んでいるとき、近くの涼しい草むらでは、キリギリスが楽しく歌っていました。『アリさん、アリさん, どうしてそんなに働いているの。まだまだ冬はやって来ませんよ』とキリギリスが言うと、『やがて冬がくるんだよ。その時困らないためさ』とアリは言い、熱心に働き続けました。一方、キリギリスはすずしい夕方になるとバイオリンを弾き、毎晩舞踏会を楽しみ、暑い日中は昼寝ばかりしていました。いつしか季節は寒い冬になりました。野の草は枯れ、キリギリスは食べるも のがなくなってしまい、餌を求めてアリの所へやってきました。『アリさん、 何か食べるものを分けてもらえませんか』とキリギリスが言うと、『それは、 お困りでしょう。どうぞお入り下さい』とアリは言い、キリギリスを暖かい部屋へ招き入れ、食事を与えてやりました。」

〇アリとキリギリスの話は、人間は勤勉であることが大切であり、怠けていてはその報いを受けるという教訓や「備えあれば憂いなし」などを考えさせる題材です。私が子どもの頃の昭和時代は、「子ども時代に必死で勉強しておけば、後から苦労しないで済む」、「将来のために、今を犠牲にしても頑張るのだ」などの考えが主流で、当時の日本人はこのおとぎ話の教訓を心の支えにして働き、日本は高度成長を遂げた歴史があります。

〇この物語は日本ではハッピー・エンドなお話になっていますが、あるイソップ研究者の調査では、世界を見渡すと日本と同じくハッピー・エンドになっているのは他の1国のみで、その他の国は「アリはキリギリスが飢えて死ぬのを待って、その死体を全部食べてしまいました」になっているそうです。欧米の社会では国境が地続きでこれまでも多くの戦争に明け暮れた歴史と風土があるので、幼い頃から人間社会の生存競争の厳しさを教えていることが背景にあるようです。

〇授業では3つのワークがありました。

1「ペアでアリとキリギリスのあらすじを説明しあう」

2「クラス全体でアリとキリギリスの2つに分かれ、どちらが偉いかを主張しあう」

3「もしキリギリスが人間だったら、あなたは助けるか助けないか」

〇ある男子生徒はキリギリスを助ける理由として、「キリギリスは音楽も演奏できるし体も大きいから、助けて仲間に入ってもらえば、何かの時に逆に助かるから」と堂々と発言しました。その瞬間にクラスはシーンとしました。「なるほど」と思って固唾を飲んだのです。菊池先生はもちろん参観していた私たち教職員もそんな見方をできるのかと目からうろこが落ちた気持ちでした。

〇私たち教職員は常に生徒と向きあっていますので、ともすると「こういう質問をすると~のような答えが返ってくるな」と自動的に予想しています。悪い言い方をすると先入観が働きます。ところがそのようなこちらが想定していなかった答えを生徒が発表したときには、指導者側が学べるのです。授業は新しい発見の連続です。

須藤昌英

12月16日(月)新着本展示会&味見読書

〇先日の市議会の話題の中でも教育予算の話をしましたが、毎年本校でも新しい本の購入費として85万円が市から支給されています。1学期に生徒や職員から読んでみたい本のアンケートをとり、予算内中で優先順位を決めて購入しています。今その「新着本」を図書室で展示しています。

〇また全クラスの国語の時間を使って、図書委員会の司会進行により、新着本を並べての「味見読書」を行いました。「味見読書」とは聞きなれない言葉ですが、あえていろいろな本を手に取り、興味のあるないも含め、今後読んでみたい本やその種類などを自分で確認する目的があります。

〇ちなみに「日本十進分類法」によると、本は次の10の類目に分けられます。

0 総記 1 哲学 2 歴史 3 社会科学 4 自然科学 5 技術  6 産業 7 芸術 8 言語 9 文学

さらにこの類目を細かくした網目があり、例えば最後の「9 文学」には、「日本文学、東洋文学、西洋文学、その他文学」と4つに分かれています。

〇最初に図書委員から説明があり、1テーブル5分ずつ6テーブルを班ごとにローテーションします。一つの本をじっくりと読むのではなく、料理を味見するように、気になる本をチェックしていく活動です。

〇生徒の感想の一部から抜粋します。

・見たこともない本や名前すら聞いたことのない本がたくさんあり、いろいろなジャンルの本に触れることができた。そのおかげで今までチャレンジしなかった本を借りてみようと思った。色々な本から新しい知識を身に付けたり理解を深めたいと思った。

・本を読んでいると自分がなんだか大人になった気分で気持ちがよくなる。できれば日向のテラスやハンモックで本が読んでみたい。

・私の場合は受験が終わってから卒業式まで約1カ月くらいあると思うので、今日見つけた本を読んでみたい。

・考えさせられる本だったり勉強になる本だったり、感動したりと本はいろいろな感情や想像ができるので、時間を忘れるくらい読んでいると楽しい。本にはテレビなどとは違う楽しさがあり、これからも興味をもっていきたい。

・自分で買いたかった本や読んで見たかった本があってよかったです。新着本の貸し出し日にはすぐに借りたいです。

・昨年よりも自分の読みたい本が多く見つかってよかった。もともと特に生物系の本や国の本が好きなので、これからは歴史や宇宙に関する本にも興味が出てきた。

・いろいろな本をいっぺんに見ることはないので楽しく、各本の特徴や情報を得ることができた。また小説でも限りなくいろんな種類があったので、ゆっくり考えながらたくさんの本と出合っていきたい。

・普段本を読むときは、あらかじめあたすじを見てから読むことが多いので、あらすじを見ないで読むことが新鮮でとても面白かった。

・最近ぜんぜん図書室に来ていなかったので、やはり図書室の雰囲気は良いと思った。

・高校受験や勉強法など、受験生にはとても大切なことがのっている本があったので、読んでみたい。

・久しぶりに絵本を読むと意外と面白いことに気が付いた。普段は小説ばかり読んでいるので、違うジャンルの本も楽しい。多くの本が歴史系で手が出しづらかったけど、考察系は自分と違う考えを知ることができて良かった。

・今は朝読書以外に本を読む時間がないので、読む機会を与えてもらってよかった。味見読書は初めの方だけ読むから、そのあとの内容が気になって今度借りようと思った。

・味見読書はすごく楽しみにしていて、今日も読めてうれししいです。自分から手にとらない本でも、味見読書だと読むことができるので、より本が好きになりました。

・まだ読んだことのない本など、たくさんの本を読んで、どの本もとても読みやすくて、ワクワクして面白かったです。

・久しぶりに自分が本当に読んでみたいという本を見つけられたのが良かったです。味見読書なので、短い時間でしたが、新しい発見がありました。

・こんど本屋で本を選ぶとき、いつも見ないジャンルの棚もみてみようと思いました。

・受験もあり朝読書以外に本を読めませんでしたが、この機会を通し読むことができてよかった。

・有名な本はだいたい知っていますが、あまり聞いたことのない本もとても面白そうで、読んでみようかなと思いました。

・毎回恒例の味見読書ですが、今年も新しい本を読むことができ、とても良い時間でした。

・新着本の中で、何冊も読みたい本があった。

・自分で今まで読んできた本とは違うジャンルも読みたくなりました。同じジャンルに限らず、もっと色々読もうと思いました。

・本それぞれに良い点があったり面白さがあったり、読んでいて苦ではなかったです。

・気になるような表紙とか挿絵を選ぶことが多いですが、本の出版社にとっても大事な視点かなと思いました。

・自分はあまり図書室に来たことがなく、本を読みたい気持ちはあったので、冬休み前に本を借りたいです。

・普段から読むような本とそうでない本まで、色々な本を手に取る機会になりました。すごく楽しかったです。

〇柏市では学校の図書室を「図書室」ではなく「学校図書館」と呼んでいます。そして学校図書館指導員という図書専門の方を市から配置していただき(これも教育予算に入っています)、日常の図書整理や各教科とのコラボ授業などのコーディネートを担当してもらっています。学校図書館が生徒たちにとって、知的で心地よい空間であるように・・・。

須藤昌英

 

 

 

12月13日(金)「2学期いじめの状況調査」より

〇先日、全校生徒を対象とした「いじめ」を把握するためのアンケートを行いました。通常学校がいじめを認知するのは、「本人からの相談、他の生徒からの情報、職員による観察、保護者や地域の方々からの情報」となっていますが、定期的にアンケートによる状況把握を行っています。

〇そもそも「いじめとは、日常的なトラブルでも、本人が『いじめられた』『不快な思いがした』などと感じるものをすべて」と定義されており、生徒も職員もそれを意識しています。いじめが発覚すると必ず複数の教員で、本人及び関係生徒から事情を聴きとり、今後の謝罪や人間関係の再構築ついての話し合いを行いました。

〇集計した2学期の認知件数は5件で、その内訳は「冷やかしやからかいを受けた」「無視された」「悪口・陰口を言われた」「勝手にシールを貼られた」となっており、最初の「冷やかしやからかい」が毎回の調査では一番多くなります。それぞれの案件で、職員がまず事実の確認を行います。

〇1学期の認知件数は8件でしたが、例年ですと1学期は進学や進級などで新しいクラスになったり、各学年とも旅行的行事があったりと、まだ人間関係が不安定な面があり、多くなる傾向にあります。ただ柏市では、「いじめが解消した」とする条件の1つが、「発生から3カ月以上当該生徒の関係の中で継続したいじめはない」となっていますので、先ほどの5件の場合も、これから3カ月間は経過観察を行います。安易に謝罪などをもって「解消」としないこととなっています。やはり人の心の中までは見えませんので、時間が必要です。

〇ひと昔前のように、二人で喧嘩しても「喧嘩両成敗」とはいかず、お互いがそれぞれ嫌な思いを抱くと、それはすべて「いじめ」とカウント(2件)しますので、簡単にその場で相手に謝って終わりとできないところが、正直難しいところです。ただ大人も含めて生きていく上で一番の悩みは「人間関係」ですので、「こうすればいじめはなくなる」のような究極の方法はなく、丁寧に対応していくしかありません。

〇いじめに対しての対応は、「柏市いじめ防止基本方針」にも示されているように、早期発見と早期対応、学校組織内の情報共有、必要な指導・措置ですが、いじめのアンケートはその一つの入り口になります。いじめの未然防止も重要なのは言うまでもありませんが、こちらは、道徳教育を充実させたり人権意識を高めたりする地道な取り組みしかありません。

〇要するに最後は生徒の想像力を引き出すしかありません。「〇〇をしてしまったけど、された方の気持ちはどうなんだろう?」「●●と言ってしまったけど言われた方の今の気持ちは?」など、だれもが意地悪をする側と意地悪をされた側の両方の経験をしているはずですので、「今の自分はどちらの立場が多いか?」と自分をメタ認知できるようになってほしいです。

〇いじめアンケートの中に「普段の生活で困ったことや悩んでいることはありますか」の項目を故意的に設けています。これはいじめではないけれど、その他の相談もしやすいようにとの配慮からです。その中に、「親子や兄弟姉妹関係について」 「クラスの雰囲気について」「受験する高校について」「塾での人間関係について」「自分自身の身体や性格について」などがあります。それらについても一つひとつ話を聞くなど丁寧に対応しています。

須藤昌英

【いじめ防止啓発カード(千葉県教育委員会)】

 

12月12日(木)地方自治への関心(柏市の教育施策と予算)

〇3年生が社会科(公民)で「三権分立」を学習していますが、日本国憲法は、国会、内閣、裁判所の三つの独立した機関が相互に抑制し合い、バランスを保つことにより、権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障する「三権分立」の原則を定めています。

〇国よりも我々にもっと身近な都道府県や市町村などの地方公共団体は、大きく2つの組織から成り立っています。一つは「議決機関(地方議会:条例の制定や予算の決定などを行う)」、もう一つは「執行機関(市長と市役所:予算に基づきそれぞれ担任する事務を行う)」です。簡単に言うと、前者は後者のやっていることをチェックする機能を果たしているということです。

〇現在令和6年度第4回柏市議会定例会(一般質問:12月5日~12日)が開会中です。その様子は市役所7階の議場に行かなくても、インターネットで視聴することができます。柏市には36名の市議会議員が市民からの負託を受けており、柏市議会定例会は年4回(3月、6月、9月、12月)開催しています。

〇その議員の中には、私の小学校時代のクラス担任や中学校のクラスメイトもいます。以前は関心が薄くその存在も遠くに感じていた市議会も、知り合いがいると柏市に関するいろいろな情報が入りますので身近に感じます。逆に今は本校の卒業生でもある上橋しほと議員には、学校行事や生徒のボランティア活動に積極的に参加していただいており、その様子を柏市の各担当部局に伝えてもらっています。

〇市議会の前に市役所の各部へは、事前に質問する各議員から質問事項が通告され、それに対して各担当が答弁書を作成します。私も教育委員会事務局に勤務している時は、いろいろな答弁書を作成していました。前述のように、市議会は市役所業務のチェックをするのが役割ですので、答弁書には誠実に、各業務の進捗状況や今後の方向性を盛り込みます。国会での答弁も同様ですが、質問が多い際には、期限日の夜中までかかって作成しています。

〇今回の定例会でも、多くの議員が、教育に関する質問をしています。その一部が、「柏市未来につなぐ魅力ある学校づくり基本方針と柏市教育大綱、小中一貫教育と義務教育学校、ICT教育とタブレット端末活用、学校での感染症対策、自転車のヘルメット着用と交通安全対策、子どもの権利条約と柏市子ども・若者総合支援センター、特別な支援を要する児童生徒、不登校児童生徒支援、学校施設開放と部活動地域移行、コミュニティースクール、子どものネット依存、子どもの運動能力、いじめ対策、学校給食と給食センター、給付制奨学金、教員不足と働き方改革、市立柏高校、公立夜間中学」など多様です。

〇いかがでしょうか?私たちがあまり意識していない裏で、これだけ教育に関する施策や予算などが議論され、その結果として学校の教育活動を下支えしてもらっているのです。先日終了した本校の体育館空調機設置工事などもすべて、昨年度までの市議会で予算案の承認を受けています。

〇大切なことはその建設費も含めてすべての教育予算は、もともと市民の税金があてられているということです。また毎日の電気・水道も市の予算があるからこそ使用できるのです。生徒たちにもその仕組みを教えていくことは大切であり、公民の授業でも扱っていると思いますが、再来週の終業式に私から話をしてみようかなと思います。

須藤昌英

12月11日(水)私たちのクリスMATHツリー(空間認知能力)

〇今1学年の数学では、空間図形を学習しています。小学校の算数では、まず1学年から身近な立体について観察したり分類したりして、ものの形を次第に抽象化して、図形として捉えられるようにしてきています。その後立体図形の点や線や面などの構成要素に着目したり、立方体・直方体・角柱・円柱・球などの多様なものを取り扱ったり、それらの見取図や展開図をかくことなどを通して立体図形についての理解を深めてきています。例えば家庭から身近な箱(お菓子やティシュペーパーなど)を持ち寄って、好きな形(タワーやロボットなど)をつくって空間意識を育てます。

〇それを踏まえ中学校数学科において1学年ではこれらの学習の上に立って、空間図形についての理解を一層深めていきます。特に数学では空間図形を空間における線や面の一部を組み合わせたものとして扱うという点に留意させます。また図形の性質や関係を直観的に捉え論理的に考察する力を養うために、立体の模型を作りながら考えたり目的に応じてその一部を平面上に表す工夫をしたり、平面上の表現からその立体の性質を読み取ったりするなど、観察や操作,実験などの活動を通して図形を考察することを基本にして学習を進めていきます。

〇展開図は平面図形ですが、それを組み立てることにより立体(空間図形)になります。問題を理解ためには例えば立方体を開いて展開図にしたり、展開図を組み立てて立方体に戻したりと、頭の中でイメージする必要があります。例えば立方体の展開図は全部で11種類あります。昔教えた時に、「へぇ意外と多いな~」と感じる生徒も多かったです。

〇数学担当の宗形教諭は、生徒たちに正多面体の展開図から立体を作成させ、それをクリスマスツリーの飾りとして廊下に展示しました。数学は英語で、Mathematics(略してMath)ですので、クリスMATHツリーとしてかけことばにしています。生徒たちの作成場面を見ていましたがとても楽しそうで、「昔はこんな授業はなかったなあ~」と思いました。

〇私が数学を担当していた時に、特に図形は生徒の好き嫌いが激しく、特に女子の苦手意識が高かったのを覚えています。その一つの要因として、幼少期から男児は積み木やブロックに熱中しやすいのに対し、女児はお絵描きやおままごとを好むことがあります。絵やおままごとセットは現実の生活に近い(具体的)のに対し、積み木やブロックは組み合わせによって何かの形をつくって(想像・創造)いくので、より抽象的な概念を必要とすることが考えられます。

〇根拠はわかりませんが、男性脳はデータなどの根拠を元に論理的に考えがちで、一方の女性脳はその場の感情や共感性を重視する…といったことを聞いたことがあります。身近では空間認知能力が高い男性の方が女性よりも地図を読める場合が多いです。最近の車はナビゲーションがありますが、昔は地図本を見て運転していましたので、男女の差があった気がします。

〇ただしこれはあくまでも一般的な話であり、近年では「理系女子(リケジョ)」も多くなっていますし、先日の1年校外学習で行った国立科学博物館に、いかにも研究者のようなオーラのある女性が多くいたことも印象に残っています。

〇ともかくこのクリスMATHツリーは、クリスマスという現実の生活と多面体という抽象物がコラボしています。年末が近づいていることを感じます。

須藤昌英

12月10日(火)自分のトリセツ(メタ認知)

〇ご存じの通り「取説(とりせつ)」は「取扱説明書」を短縮した言葉で、カタカナで「トリセツ」と書くことも多いようです。10年ほど前に、若い女性の歌手が歌っていた同名のヒット曲を聴いた際、私も初めて取扱説明書を略してトリセツと呼ぶことを知りました。

〇トリセツには普通、その製品の「スペック(性能)や特徴」「正しい操作方法」「上手な使い方」「使用上の注意」「故障の見分け方」「安全に関する注意事項」などが記載されていますが、冒頭からすべて読む人は皆無でしょう。必要な時に該当箇所を読んで対処することがトリセツの目的だと思います。

〇このように家電などの操作を書いたトリセツはなじみ深いですが、「『自分のトリセツ』とはいったい何のことだろう?」と疑問に思う方もいると思います。簡単に言えば、「自分を知る」ということであり、日頃から統計的に「自分はこういう時にはこう考えたり行動したりすることが多い」と自分を客観視することです。

〇そのように、自分の「心や内側」に関心をもち、徐々に自分の「輪郭や本質」を理解することは、大人になる過程では欠かせないものであると思います。ただし「どうせ自分は~のような人間だから」と開き直るのではなく、今の自分を出発点とし未来のなりたい自分をイメージしながら、やりたいことやるべきことに取り組めることが理想だと思います。

〇自分のトリセツのきっかけになり得る一つの方法として、日記も有効です。また最近は日記に似ていますが、ライフログという記録方法も広まっているようです。ライフログとは、LIFE(生活)とLOG(記録)を組み合わせた造語で、日々の生活体験、気づいた情報などを紙や手帳、スマホのアプリやブログ等にデジタルデータとして記録していくことを指すそうです。それにその時の気持ちや行動も一緒に記録することで後で振り返りやすくなったり、自分だけのオリジナリティに富んだライフログとなったりするのが利点でしょう。

〇私も昭和から平成に変わる時、何か新しいことを始めよう(それまで簡単な手帳に出来事を書いていましたが・・)と思い立ち、本格的な日記帳を使い始めました。当時は25歳でしたので、間もなく37年になり、自宅には数冊の日記帳(3年日記、5年日記、10年日記など)があります。

〇日記から転じて「自分のトリセツ(メモ)を書く」にはまず、自分の強みや弱みを把握することから始めるのがよいと思います。人にはそれぞれ物事の見方や感じ方の癖がありますが、それを癖ではなく自分軸と捉え、生きていく途中に迷ったりつまずいたりした時に参考に見るメモがあれば、安心感を得るなどの大きな要素になります。

〇昔から「己事究明」といって、「自己とは何かを究めて明らかにすること」を若者は求める傾向にあります。先月に「一つのことを考え抜くのは大人への一歩」と題して「哲学」について書きましたが、中学生くらいになると、やたらに理屈っぽくなり、世の中の出来事も批判的に見るようになります。この屁理屈こそ中学生には大切ではないか?と思います。ただ外ばかりでなく、自己に対してもも批判的になりますので、極端に自己否定にならないようにすることも重要です。

〇自分のことを見つめることをマインドフルネスでは「内観」とも言います。よく生徒の学習や大人の仕事でも予習よりも復習が肝心だと言われますが、私も含め想像するに自分自身について丁寧に復習している大人はあまりいないのではないでしょうか。忙しいことを理由に、SNSなどの外部の刺激には反応しても、自分自身の身体にだけ意識を通し続けることは避けているのが実情でしょう。

〇自分のことを客観視する「自己モニタリング」は、ストレス対処やパフォーマンスの向上に役立つといいます。その自己モニタリングに欠かせないのが、「メタ認知」で、「メタ認知」とは「自分自身の認知(考える・感じる・記憶する・判断する等)を第三者的な立場から冷静に客観視できる能力」のことです。この能力によって自分が行っていることが正しいのか、また間違っているのであればどのように修正すればよいのかを判断することができるようになります。もちろん中学生にもこの能力は十分にあります。

〇メタ認知が高くなれば、自分の得意・不得意なことを的確に認識し、「自分ができないことをするためにはどうしたらいいのか?」という問いに対して自分で答えを出そうとします。この客観的な視点から自身を認識することと他人から見た自分の姿を一致させていくことで、本当の自己肯定感が生まれます。「自分には●●という長所があるので、それをいかして〇〇を頑張っていきたい!」とすべての生徒が言えるようにしていきたいと願います。

須藤昌英

 

12月9日(月)「推し活」についての一考

〇最近よく耳にするようになった「推(お)し活」とは、アイドルやキャラクターなどの「推し」、いわゆるご贔屓(ひいき)を愛でたり応援したりする活動のことのようです。

〇この時期によく「新語・流行語大賞」が発表されて話題になりますが、「推し活」は3年前にノミネートされています。そもそも「推し」という言葉は 1980年代頃からアイドルオタクの世界で発祥した俗語のようで、「あなたが推しているモノは何ですか?」などと、好きなモノを聞く文脈で使われています。

〇誰でも好きなグッズを集めたりすることはありますが、少し調べるとその他広い範囲で次のような使われ方があります。

【推しに触れる】

推し活グッズを買う/推し活グッズをコレクションする/コラボカフェに行く/コラボイベントに参加する

【推しに逢う】

ライブや舞台を観に行く/推しのDVDや配信映像を鑑賞する/撮影スポット、ゆかりの地などの聖地巡礼をする/ファンレターを書く/推しにプレゼントを贈る

【推しに染まる】

推しと同じものを持つ/推しのイメージカラー(推し色)の服やコスメを集める

【推しを広める】

SNSで推しの魅力を語る/推しを他人に布教する

【推しを感じる】

一人静かに推しのことを想う/推しが生きて存在していることに今日も感謝する

〇23歳の社会人1年目の娘もご多分にもれずにこれまで様々な推しのアーティストのライブ等に行っていました。アルバイトで得たお金はほとんどそれに使われていたようです。ただ最近は先日も「昭和」について書きましたが、特に昭和時代の音楽が大好きなようで、わざわざ古いレコードやカセットテープを購入し、それに合わせてレコードプレーヤーやカセットデッキも揃えて楽しんでいます。時々「私も昭和に生まれたかった」と言っています。

〇推すという行為は「社会が多様化に向かっていることを象徴している」と指摘する人もいます。若者の間でも日本の従来からの終身雇用に固執することなく、自身のキャリアに積極的な転職を視野に入れておくことも普通になっています。また日常の消費に対しても、例えば大きな仕事が終わると少し高めのスイーツを買って自分へのご褒美などと言い、日々の活力や安息につなげています。

〇つまり「推し活をしている間はツライ日常を忘れることができる」「推し活のためにやりたくないことも頑張れる」というように、推しへの傾倒や消費そのものが自身を励ますことにつながることは理解できます。ただ一部で自身の経済力と見合わない推し活をし、昨今言われる「推し疲れ」のように「推す」ことをやめたいと感じることもあるようで、注意が必要です。

〇私は以前から「推しのもつ前向きで活動的な面を学校の活動にも活用できないか・・」と考えていました。例えば生徒が「この活動(委員会や部活動)は自分のモチベーションがあがる」「この教科をどこまでも深く突き詰めたい」など、それぞれの興味や関心を優先することももっと引き出してあげたいです。

〇そのためにも我々大人が自分のもっている興味や関心のレベルを保ちながら持ち続けつつ、一人ひとりの生徒が持っている興味・関心を伸ばすという視点を失わないようにしたいです。一見学校の授業とは関係ないように見えることでも、本人が興味を持ち集中して取り組んでいることをきっかけに学ぶことの面白さを体験することができます。そこから学びを深めていくことによる成長は目を見張るものがあると、これまでの教員生活で実感しています。

〇今年もあと3週間(2学期は2週間)と残り少なくなってきました。「今日も私は『●●という推し活』があるから学校に行きたい」と思ってくれる生徒が増えることを望んでいます。

須藤昌英

 

12月6日(金)1学年校外学習

〇本日の1学年校外学習は、公共交通機関の電車を利用し、上野恩賜公園にある博物館や美術館、動物園等の見学が主な行動です。

R6年度1学年校外学習スローガン「一意(いちい)専心(せんしん)~みんなでつくりあげよう~」

*スローガンのねらい

・他に心を動かされず、ひたすら一つのことに心を集中すること。

・この校外学習でクラスを1つに学年を1つに!

〇昨日は体育館で事前指導として、行程や注意事項の最終確認を行いました。

 

〇生徒用しおりに掲載した校長のメッセージです。

新しい発見と小さな感動の体験を! 校長 須藤昌英

1学年の皆さんを見ていると、4月の入学式の頃に比べて、中学校生活にも慣れ、充実した毎日を過ごしているようです。入学前に想像していた生活と大きな違いを感じる人もいるでしょうし、一方で段々と「中学校とはこういうところなんだ」と達観し始めている人もいることでしょう。

小学生だった頃までは、ある程度大人が計画したことを素直にやってみることを求められてきたと思います。しかし、中学生は自分で考え、実行していく力をつけていく必要があります。

今回の校外学習もあらかじめ決められたスケジュールはありますが、その一つ一つを「これは何のためにやるのか?」「どうやったら上手くいくだろうか?」と自分たちに問いかけてみましょう。人を頼りにするのではなく、自分で考え正しく判断し、自分でやり遂げていくことを「自立」といいます。

一人ひとりの自立した行動が、校外学習が成功するかしないかのカギとなります。そしてこの経験が、来年以降の林間学校や修学旅行につながる行事となることを願っています。

事前に調べたことを実際にその現地に行き、観察・実験・体験、さらには資料収集等をすることを「フィールドワーク」と言います。本やインターネットで見たり知ったりした知識は、実感が伴わないことが多いので、時間が経過すると忘れがちです。しかし、自分の目や耳、その他の感覚をフル稼働して体験したことは、それと関連した知識と結びつくことにより、「生きて働く知識」と昇華します。 

この校外学習で皆さんにお願いしたいことは、現地でどれだけ多くの新しい発見ができるか、そしてそれらを心の底から素直に感動できるかを意識して、楽しんでほしいということです。きっとみなさんにとって、上野の地が「学びの場」となることでしょう。

各クラスの実行委員の皆さん、よろしくお願いします。校外学習を終えてから、さらに一回り大きくなった、中学生としての皆さんの姿を見られることを期待しています。さあ出発しましょう!

〇朝から生徒たちの様子を随時アップしていきます。

【予定】

7:45生徒集合JR北柏駅

8:09北柏駅出発

8:12柏駅到着乗り換え

8:34柏駅出発

9:03上野駅到着上野動物園へ移動

9:15上野動物園前開校式集合写真撮影

9:40班別行動開始

11:55上野動物園前広場 昼食

13:10上野動物園散策

14:05閉校式

14:42上野駅出発

15:09柏駅到着

15:24柏駅出発

15:27北柏駅到着 解散                                

 

【生徒たちの様子】朝の北柏駅集合はスムーズで、電車の中でもマナーを意識した行動でした。素晴らしいと思います。冬晴れの青空といちょうの黄色が見事なコントラストの上野恩賜公園。朝から各博物館等は行列が出来ています。同様の校外学習の他、外国人観光客の多さに驚きです。国立の博物館や美術館は展示が充実しているので、とても短い時間では見学しきれませんが、大人になってもリピーターとして訪れるきっかけになって欲しいです。私も国立科学博物館に午前中いましたが、以前になかった地球館は、地下三階地上三階の大きさで、とてもじっくりとは観られませでした。また来ようと思いました。時間通りに元の場所に集合し、昼食は大噴水の前で持参したお弁当を食べました。美味しそうでした。その隣で食べ物のフェスをやっていたので、いい匂いがしていました。余計に食欲が増したようです。午後は上野動物園です。生徒に「見たい動物は?」と尋ねると、「レッサーパンダ、キリン、ホッキョクグマ・・」など様々。残念ながらジャイアントパンダはいません。ゾウを見ると道徳の教科書にあるお話し(太平洋戦争中に、空襲などで動物が逃げ出すことを避けるため、上野動物園のゾウを殺処分した史実)を思い出しました。園内には多くの保育園児や幼稚園児がいましたが、彼らもほんの少し前はあのように幼さかったと思うと、よくここまで成長しているなと感動します。あすなろ一組は担任の作成した園内マップに見られた動物のシールを貼ってまわっていました。閉校式も実行委員会を中心によくできました。このままであれば、来年の林間学校も大丈夫だと感じました。帰りは始発電車でみんなが座れましたが、途中から乗る人がいるとあえて立ち席を譲る生徒もいました。シルバーシートの意味もお互いに話していました。柏で乗り換えて、北柏駅で解散です。夕方は少し寒くなってきました。週末は体調に留意し、また月曜日に会いましょう。自宅まで気をつけて。さようなら。

【校外学習を終えて】

朝の上野恩賜公園での開会式に、「この公園は江戸時代まではすべて寛永寺というお寺の境内でした。広大ですね。それが160年前の明治維新で国内戦争があり、この上野で多くの人が亡くなり、寛永寺も焼け野原になりました。その後いろいろと整備されて今のこの公園になっています「今駅から通ってきた時に見たと思いますが、西洋美術館はもう長蛇の列でしたね。私たちは電車で30分で来られますが、あの列の中には飛行機や新幹線で全国各地から来ている人も大勢います。それだけこの地にある国立の施設(博物館や美術館)は素晴らしいモノが集められているのです。」「それを考えると君たちは幸せですね。今日だけですべての見学はできませんので、今日はあくまでも興味のあることにふれるきっかけになればいいなと思います。ディズニーランドのリピーターもいいですが、上野のリピーターになるのも面白いかもしれません。」と話をしました。

学校に帰って引率職員で反省会をしました。今回は私も含めて10名の職員で160名の生徒を引率しました。ただし来年と再来年の林間学校や修学旅行は、同じ人数で宿泊を含めた2泊3日を引率します。十分に事前の入念な計画と安全に関する指導はしていきますが、ご家庭でもそのあたりの事情も含めて、今日の話を聞いてあげてください。ありがとうございました。

須藤昌英

12月5日(木)「やさしい心が一番だよ」人権に関する講演会

〇昨日の午後は体育館で、柏人権擁護委員協議会主催の講演会を開きました。講師は、「いじめ問題の解決に取り組むNPO法人ジェントルハートプロジェクト」の理事である小森美登里さんで、全校生徒を対象に「やさしい心が一番だよ」と題して話をしていただきました。

〇小森さんは今から27年前、当時高校一年生だった一人娘の香澄さんをなくしました。いじめを苦にした自死でした。「娘と同じように苦しみそれによって家族などが悲しい思いをこれからは決してしてほしくない」という願いから、ご夫婦でNPO法人を起ち上げ、全国の学校を講演してまわっていらっしゃいます。著書も数冊あります。

〇私は前任校でも講演していただいたので、数年ぶりにお会いしました。講演前の校長室でいろいろお話をさせていただきましたが、今月も新書「いじめに対する大人の誤解―スクール虐待の現実―(新日本出版社)」を出版されるので、出版記念のトークイベントがあるなど、お忙しいそうでした。「娘も存命ならば、42歳になっています。今日も心を込めて生徒さんたちにお話しさせていただきます」とおっしゃっていました。

〇生徒たちは真剣に話に耳を傾けていました。特に「被害者責任論」と言われるものは決して容認されてはならないというお話が印象的でした。もしいじめを受けた被害者からの相談を受けた際、「あなたの方にも原因があったのでは?」「あなたから止めてほしいって言ったの?」「もっとあなたも強くならないとね!」などは禁句です。やはり「つらかったでしょう。もう大丈夫だよ」の言葉がけが何よりも大切です。その他、お子様から心に残っている話を聞き出してみてください。

〇講演後、「世界に一つだけの花(作詞・作曲 槇原敬之)」の一番だけを歌詞の意味を考えながら全員で聴きました。

花屋の店先に並んだ

いろんな花を見ていた

ひとそれぞれ好みはあるけど

どれもみんなきれいだね

この中で誰が一番だなんて

争うこともしないで

バケツの中誇らしげに

しゃんと胸を張っている

それなのに僕ら人間は

どうしてこうも比べたがる

一人一人違うのにその中で

一番になりたがる

そうさ 僕らは

世界に一つだけの花

一人一人違う種を持つ

その花を咲かせることだけに

一生懸命になればいい

〇最後に、小森さんの詩を山中教諭が朗読して終わりました。

「生まれてきてくれてありがとう~この詩を香澄へ、そしてすべての子どもたちへ贈ります~(小森美登里)」

ありがとう 生まれてきてくれて

ありがとう 病気をした時 いっぱいいっぱい心配させてくれて

ありがとう 多くの出逢いをプレゼントしてくれて

      そして 楽しい思い出 一杯くれて

ありがとう 生きる意味を考えるチャンスをくれて

      そして全ての命がいとおしいと感じさせてくれて

ありがとう お父さんとお母さんと出逢ったこと

      間違いじゃないって気付かせてくれて

ありがとう こんな私に子育てさせてくれて

      あなたをこんなに愛させてくれて

ありがとう 教室の中の子どもたちの苦しさ悲しさ

      いっぱい教えてくれて

ありがとう 「やさしい心が一番大切だよ」の言葉を

      残していってくれて

      そして、この言葉を伝える人生をくれて

ありがとう 15年と7カ月私と生きてくれ

      いつか逢える楽しみをくれて

      お母さん、それまで頑張って生きるよ

ありがとう ありがとう ありがとう

      言い尽くせない たくさんのありがとう

      でもごめんね 守りきれなくて

ありがとう ありがとう ありがとう

      全ての子どもたちへ 

生まれてきてくれてありがとう!

〇演題の「やさしい心が一番だよ」は、生前の娘さんが小森さんに何度かつぶやいた言葉だそうです。子どもも大人もかみしめていきたいものです。

須藤昌英

 

 

12月4日(水)職業人から学ぶ「企業来校型交流授業」(2学年)

〇昨日の5.6時間目に、一般企業7社の方々に来校していただき、「働くこと」への理解を深める交流授業を行いました。一つの授業(30分程度)を3ローテーションして行い、司会・運営・企業の方への挨拶等は全て生徒に行わせました。

〇ご協力をいただいた企業は、

1.みどり産業株式会社 様

2.東部重工業株式会社 様

3.ロマン産業株式会社 様

4.日新火災海上保険株式会社 様

5.(株)富士エコー 様

6.JAL Agriport株式会社 様

7.社会医療法人社団蛍水会名戸ヶ谷病院 様

〇激しく変化を続ける現代社会で、4~6年後に2学年の生徒たちは成人(18歳または20歳)となります。その時にはどんな職業で社会に貢献していくかのイメージをもっていることが不可欠です。自己の生き方を考えるようにするために、職業や自己の将来について考えるともに、その前提となる自己肯定感・自己有用感を育てることを、学校はすべての教育活動で目指しています。

〇学校で実施するキャリア教育は、あらゆることを他人事ではなく自分との関わりとして大切にする自我関与や物事を多角的・多面的にみる力を養うことなどをねらいとし、家庭、学校、及び地域における学習や生活の見通しを立て、学んだことを振り返りながら、新たな学習や生活への意欲につなげたり、将来の生き方を考えたりする活動です。

〇ただ社会環境の変化に加え、産業・経済の構造的変化、雇用の多様化・流動化等は、生徒たち自らの将来のとらえ方にも大きな変化をもたらしています。特に生徒たちは自分の将来を考えるのに役立つ理想とする大人のモデルが見付けにくく、自らの将来に向けて希望ある夢を描くことも容易ではなくなってきています。さらに彼らの心身の発達も以前から変化し、例えば一般的に身体的には早熟傾向にありますが、精神的・社会的側面の発達はそれに伴っておらず遅れがちであるなど、全人的発達がバランス良く促進されにくくなっています。

〇そこへコロナの影響もあり、具体的には人間関係をうまく築くことができない、自分で意思決定できない、自己肯定感をもてない、将来に希望をもつことができないといった生徒の増加などが指摘されています。とどまることなく変化する社会の中で,生徒たちが希望をもち、自立的に自分の未来を切り拓ひらいて生きていくためには、変化や失敗を恐れず、変化に柔軟に対応していく力と態度を育てることが求められています。

〇昨日の交流授業では、私自身も環境や農業、製造や運送、保険や医療等の専門家のプレゼンを聞き、とても参考になったことが多くメモをたくさんとりました。やはり学び続けることは大切だと感じました。そして何よりも一緒に参加した生徒たちが疑問に思ったことを質問したり学んだことの感想を発表したりする姿が、通常の授業よりも立派であり、「いつもみているようでも、それ以上に成長しているな」と感心を通り越して感動しました。企業の方々からも「素直で熱心な生徒さんたちですね」と帰りがけに声をかけてもらいました。

〇私もそうでしたがよく中学生には「今何のために学んでいるのかわからない」という気持ちが絶えずあります。企業の方々も自分の経験談の中で、「自分が中学生の時には●●を勉強する意味がわからなかったけれど、今はそれがよくわかります。まずは興味をもつことを大切に授業を受けてください」とアドバイスがありました。今後の生徒たちの変化が楽しみです。

須藤昌英

 

 

 

12月3日(火)合格祈願マンホールカード

〇先日の広報かしわの掲示板に「合格祈願のマンホールカードをプレゼント」と題し、「丸いから『落ちない』、表面の凹凸で『滑らない』というマンホールの特徴にあやかり、マンホールカードで受験生や資格試験などを控える方を応援します」とありました。一人1枚先着500名とあったので、早速朝の9時にかしわインフォメーションセンターに行き、もらってきました。

〇全国には様々な合格祈願グッズがあります。神社のお守りや絵馬、お寺の達磨や破魔矢などは定番でしょう。語呂合わせで五角形の物が「五角形(合格)」を連想させるので、五角形の鉛筆やはし、私も大学受験の際に使っていましたが五角形のマグカップなどがあります。昨年の卒業生の時には、広島県の「宮島の合格しゃもじ」を校長室に飾っていましたが、今でもあります。

〇静岡県の大井川鐵道には「合格駅」があります。受験生にとって縁起の良いこの駅は、1927年に大井川鐵道が初めて部分開業した日に営業を開始した歴史ある駅ですが、元の駅名は確か「五和(ごか)駅」でした。私も昔3年生担任だった際に、現地に行き何だか忘れましたが何かのグッズを購入した記憶があります。

〇調べるとこの願掛け(お守り)の起源は縄文時代にさかのぼるようで、当時の人々が魔除けとして勾玉を身につけていたのが始まりだそうです。その後日本に仏教が伝播し寺で呪符が配られるようになり、さらに平安時代後期の懸守(かけまもり)には、仏像が彫られた木製の円柱が納められていたようです。いつの時代にも人間は、祈りと共に生きていたということでしょう。

〇今回はマンホールですが、世の中では珍しいマンホールを撮影して歩く人がいたり、「マンホール女子」という言葉もあったりします。各地ではマンホールにスポットを当てたイベント等も開催されており、予想外といっては失礼ですが、マンホールがひそかなブームとなっています。

〇東京の湯島天神は学問の神様で有名ですが、「合格守」というお守りはないそうで、そもそも普段からの勉学の成果が合格に結びつくものであるという考え方から、「学業成就」「学業守」となっているのだそうです。私もこれが本当ではないかと思います。合格祈願・学業成就は本人の努力が一番肝要で、それを精神的にサポートしてくれるのがお守りであり、たとえ受験の結果がどうであれその努力した経験こそ次にいきてくるのだと思います。

〇今年の修学旅行でも何クラスかは、学問の神様と言われる菅原道真を祀る京都の北野天満宮に団体参拝し、祈祷を受けてお札を授かりましたが、これも確か「学業成就」と書いてあったと思います。今は高校や大学の受験の際に祈願する人がほとんどでしたが、昔はもっと幅広く職人ならばその技能を、武士ならばその武芸の上達を願っていたのでしょう。

〇昨日の午後は本校の進路検討委員会を開き、現時点での3年生全員の進路希望先を確認しました。以前にも書きましたが、進路指導は窓口である担任が生徒や保護者とやりとりをし、その経過はすべてこの委員会に報告されます。この委員会の委員長は校長ですので、先月まで行ってきた生徒との校長面接の中で本人が述べていたこと(やりたいことや将来の夢)を思い出しながら参加しました。

〇きっとこの「柏市版マンホールカード」が、学び成長し続ける本校の3年生たちの奮闘を後押ししてくれると思います。

須藤昌英

12月2日(月)生徒の人権「子どもの権利」

〇12月に入り朝晩の冷え込みは冬を思わせますが、まだ日中の暖かさにはホッとします。先日のシグフィーでお知らせした「セクシュアルハラスメント等及び体罰に関する実態調査(学校生活アンケート)の実施について」は、12月が全国人権週間であることも踏まえ、毎年実施しているものです。

〇そもそも教職員によるセクシュアルハラスメント(性暴力を含む)を防止するには、正しい人権意識が不可欠です。1989年に国連総会において採択された「子どもの権利条約(18歳未満の人)」は、子どもが守られる対象であるだけでなく、権利をもつ主体であることを明確にしました。子どもが大人と同じように、ひとりの人間としてもつ様々な権利を認めるとともに、成長の過程にあって保護や配慮が必要な子どもならではの権利も定めています。

〇具体的には、「生きる権利」「成長する権利」「暴力から守られる権利」「教育を受ける権利」「遊ぶ権利」「参加する権利」など、世界のどこで生まれても子どもたちがもっている様々な権利が定められました。この条約が採択されてから、世界中で多くの子どもたちの状況の改善につながってきており、日本も例外ではありません。1989年はちょうど平成元年ですので、私が教員としてスタートして3年目にあたり、学校現場でもその話題が多くなってきたことを思い出します。

〇すべての教職員は日頃から生徒に対し、1対1で閉鎖的な状況で指導や対応をしない、不必要な身体接触はしない、管理職の許可のないメッセージ等の送信はしないことを認識しています。問題行動が発覚しても必ず複数の教員で、事実や原因の聞き取り等を決めつけや押し付けをしないで時間をかけても丁寧に行っています。確かに昭和の時代までは、該当生徒の言い分を十分に聞かずに状況を判断し、その後も「今回のことを自分で保護者に伝えるように」のような指導がありました。

〇しかし現在は、たとえ時間がかかっても生徒本人が自分のしてしまったことと正面から向き合い(多くはこれに時間を要します)、その時の心境や周囲との人間関係、その後の気持ちの変化などを浮き彫りにし、それを管理職も含めた職員の中で共有し、その詳細を保護者に伝えています。単純に比べることはできませんが、昭和の時代の指導よりも数倍の時間をかけています。これも「子どもの人権」を第一にした意識の変化です。

〇学校教育法第11条は、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。 但し、体罰を加えることはできない」と規定されています。この懲戒とは、生徒に問題行動等があった場合に、これを正すために指導や助言、時には一定の行動制限を加えることをいいます。要約すれば、体罰(生徒の身体に対する侵害)は論外であり、前述のような生徒の人権を尊重した指導をしなければならないということです。

〇また生徒に肉体的苦痛を与えるようなもの(指導中に生徒がトイレに行きたいと訴えても認めない、課題などを忘れた生徒に対して自席ではなく教室の後方で授業を受けさせるなど)も体罰の範疇になります。一方で懲戒権の範囲内と判断されると考えられる指導として、放課後等に残して話を聞く(指導する)、未提出の学習課題を課す、立ち歩きの多い生徒を叱って席につかせる等は認められています。いずれもそのことを通して生徒本人に振り返りの時間をつくったり、クラスなどへの影響を考慮したりしたものです。

〇冒頭の実態調査においては、生徒の記述があった場合には事実確認をしたり、調査結果を教育委員会への報告をしたりしていきます。お子様に回答内容を確認していただき、もし相談等があれば担任や職員に連絡をしてください。

 須藤昌英

 

11月29日(金)第2回授業参観

〇昨日はとても暖かく、穏やかな一日でした。午前中は多くの保護者の方々にご来校いただき、生徒たちの学びの姿をみてもらいました。私もいつもように各教室を回っていましたが、生徒たちは授業参観だからといって「よそゆき」な素振りもなく、普段通りの学びの姿でした。

〇富勢中学校区小中学校4校の共通教育目標は、「自ら学び 心豊かに たくましく生きる富勢の子の育成」です。またこの夏季休業中に富勢中学校区小中学校4校の教職員と各校PTA役員、学校運営協議会委員、富勢中代表生徒で行ったワークショップ(熟議)を受けて、「本学区での義務教育9年間の学びを通して、富勢中を卒業する時に身につけさせたい力や目指す児童・生徒像」をまとめました。

〇特に熟議の最後に、いろいろな身に付けさせたい力や目指す児童生徒像を実現する前提としての「児童生徒にとって一番大切なのは健康と体力であり、その上に社会性やコミュニケーション能力、チームワークを大切にする心、自立心等々が養われていくだろう」を仮説として、変化が激しく多様性が求められる時代を生き抜くために必要な力を次の4つに絞りました。                  

1 自分を大切にし、他者を尊重する力

自分の意見や感情を大切にしつつ、他の人の気持ちや考えも理解し尊重できる力。多様な社会の中で、お互いを尊重し合いながら成長するための基盤となる。

キーワード: 「まずは自分が大切、ならば皆も同じく大切にしよう!」

2 考えを伝え、協力する力

自分の考えや意見をしっかり表現し、他者と協働して物事を進める力。チームでの協力やコミュニケーションを大切にし、共に目標を達成できるようになる。

キーワード: 「親しくはない仲間の中でも、お互いに考えを伝え合おう!」

3 しなやかに挑戦し続ける力

困難に直面しても、失敗を恐れずに挑戦し、学び続ける力。未来に向かって、自分の道を切り開くために必要な自己肯定感や、柔軟な思考を身につける。

キーワード: 「失敗を失敗のままで終わりにせず、それを活かそう!」

4 社会で活かせる学びの力

基礎学力をもとに、実社会で必要な知識やスキルを使いこなす力。自分の興味を活かしながら、これからの社会で役立つ力を身につけていく。

キーワード: 「学んだことのエッセンスを、自分の将来のベースとしよう!」

〇昨日の授業もその視点からみると、学年や教科の違いはありますが、上記の4つのどれかを目標として展開されていることがわかります。例えば国語や社会で単元の内容を自分で調べてクラスで発表することは、「考えを伝え、協力する力(キーワード:親しくはない仲間の中でも、お互いに考えを伝え合おう!)」に合致し、数学や理科で紙の立体や前線の模型を作成することは、「しなやかに挑戦し続ける力(キーワード: 失敗を失敗のままで終わりにせず、それを活かそう!)」に沿った活動になります。

〇参観していただいた感想を全職員で分析し、今後も質の高い授業(生徒が主役となり、時間内に学んだ知識をいつでも使える知識に昇華していく)を目指してまいります。

須藤昌英

 

 

11月28日(木)昭和百年への思い

〇今年も残りほぼ1カ月で終わります。来年は令和7年ですが、平成で言えば37年、昭和で言えばちょうど100年にあたります。また「昭和の日(4月29日)」は、国民の休日に関する法律の一部改正で、「激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす」ことを目的に制定されています。

〇確かに昭和時代には大きな戦争(太平洋戦争)もあり、その死者は310万人と言われています。私は昭和38年生まれですので、終戦から18年しかたっていませんでしたが、幼児期に東京オリンピックや大阪万博があり、今思うとそれらが復興の象徴だったのだと感じます。

〇昭和の終わりは1989年1月7日の昭和天皇崩御でした。私は教員になって2年目でしたので、連日報道された昭和天皇のご容態の変化のニュースを見た当時の生徒たちと教室で、「これから日本はどういう時代になるのか?」などと話していたことを思い出します。実際にしばらくは明るい街中の看板のネオンやテレビのバラエティ番組が止まり、自粛ムードが日本全体を包んでいました。

〇翌1月8日は「平成」という改元の発表がありました。当時の小渕官房長官が「平成」という文字を掲げて発表したので、小渕さんは「平成おじさん」と呼ばれていました。しかしみんな見慣れない「平成」という元号が果たして受け入れられるのか?と思っていました。実際にその年の卒業式は「昭和64年度」ではなく、「平成元年度」となり、出席した生徒や保護者、教職員も少し戸惑いがあったことを覚えています。

〇元号が変わるという初めての経験でしたので、何かすべてが新鮮なイメージでした。平成から令和への改元はまだ数年前であり、天皇陛下が亡くなられる前に譲位する「生前退位」でしたので、37年前の昭和から平成の時よりはその直後のコロナ禍の影響もあり、淡々としていました。

〇詳細はわかりませんが、西暦200年になるときに言われた「2000年問題(コンピュータシステムの誤作動が起こる可能性が懸念された)」と同様の心配が「昭和100年問題」と言われているそうです。24年前の当時も学校では色々なデータをコンピュータで一括管理する体制に移行していたので、成績等が消失してしまうのではないか?とあれこれ心配していました。今回も大きな混乱がないことを願います。

〇12年前に亡くなった父が、1925年生まれなので来年で生誕100年になることを家族では前から意識していました。今は「人生100年」と言われるようになったので、これからますます百歳の方々が増えることでしょう。また今の天皇陛下と私はほぼ同年代なので、「次の改元まで生きていられるか?」なども考えるようになりました。

〇生徒たちは平成に生まれ令和で成人し、これからの時代を自分の好きなことに精一杯取り組んでもらいたいと思っています。そのためには昭和時代のむごい戦争や平成時代の社会衰退から学び、令和を持続可能で誰もが希望を胸に生ける時代にみんなでしていかねば・・と思います。

 須藤昌英

【平成の元号を発表する当時の小渕官房長官】

11月27日(水)災害(防災)用井戸掘削工事

〇本校にはこれまで災害用井戸はありませんでした。そのことは先日に本校体育館で実施した富勢地区の避難所開設訓練でも課題として挙げられていました。そこで昨日から災害用井戸の掘削工事が始まりました。正門を入ってすぐ左のスペースに業務用の掘削機が入り、地下約70mまで掘るそうです。

〇災害用井戸は地震や台風などの災害時に、水道が断水した場合に不足する水を確保する手段の一つであり、井戸の設置目的や管理状況等により、消防用水、飲料水、生活用水などに用いることを想定しています。害時には多くの生活用水が必要ですが、本校の井戸は飲めませんので、非常用トイレなどに活用します。

〇では防災井戸とはいったい何をもってして防災井戸と呼べるのかというと、昔から一般家庭で使用されている井戸の唯一の弱点ともいえるのが、「電動ポンプ」を使っていることであり、電力の供給が止まってしまえば、水を汲み上げることができません。外から見てもはいつもと変わらない状態でも、停電によって井戸が使えなくなってしまうのです。

〇そこで防災井戸に欠かせないのが「手押しポンプ」です。今はその手押しポンプ自体の性能も向上しているので、高齢者や子どもでも簡単に水を汲み上げることができます。私は自宅近くで借りている畑で野菜を栽培していますが、その近くに昔ながらの手押しポンプの井戸があります。夏は何回もくみ上げるので重労働ですが、スポーツジムのトレーニングだと思うと楽しくなります。3歳の孫娘はこの井戸が大好きで、まだ上手く汲み上げられませんが、私が手伝おうとすると、「手出しするな」と怒ります。彼女にとっては家庭の水道との違いが面白いらしくいつまでもやっています。

〇大切なのは防災井戸として安定的な水量を確保するため、豊富な水量があると想定される場所であることです。掘削業者によると、本校は少し台地になっていますが、その下は多くの水脈があり、その心配はないそうです。私たちは通常、トイレやお風呂、洗濯などの生活用水として人当たり1日186リットル以上使っていると言われています。手押しポンプは1時間あたり最大で2,640Lの性能があるようで、実際の災害時には通常のように水は使えませんので、中学生などが交代で井戸の稼働をすれば、避難所や地域住民が使用しても大丈夫です。

〇過去の大規模な災害の発生によりライフラインが寸断され、深刻な水不足に陥った地域も少なくありませんでした。特に生活用水が不足し、トイレに行くのを我慢するために水を飲まない人が多くいて、それが脱水症状からエコノミー症候群や心筋梗塞などにもつながりますので、水の確保は命に直結する重大な課題です。

〇完成までに約二週間かかります。正門付近には交通整理員が立っていますが、工事車両が出入りしますので、登下校時の生徒の安全を最優先します。また明日の授業参観も正門ではなく、体育館脇の東門をご利用ください。

須藤昌英

 

11月26日(火)一つのことを考え抜くのは大人への一歩

〇先週の朝日中高生新聞に、「実は楽しい、哲学」という特集記事がありました。「古代ギリシャのソクラテスをはじめ、先人たちの『愛』は脈々と今日まで受け継がれ、現代人の頭にも『インストール』されています。哲学の入口に立ってみませんか?」とリード文があります。

 

〇一般の人が「哲学」と聞くとどのような印象を持つでしょうか。おそらくは難しそうに思えたり、敷居が高くて自分には無関係と感じたりしてしまうかもしれません。ただ中学生くらいになると、やたらに理屈っぽくなり、世の中の出来事も批判的に見るようになります。私もその頃にはよく両親に、「屁理屈(へりくつ)ばかり言っていないで・・」と言われたのを思い出します。

〇ただこの屁理屈こそ中学生には大切ではないか?と思います。それまでは大人の言っていたことを素直に聞いているだけだった子が、自分なりの見方や考え方を持つようになる。もちろんすべてを拒絶するのではなく、少しは相手の言葉にも耳を傾けて欲しいですが、この変化も立派な成長だと思います。

〇「哲学(philosophy)は、『知を愛する』というギリシャ語に由来します。哲学者はこの世界の本質を数千年の間、論理や思考を通して解き明かそうとしてきました。中学生も「自分ってなんだろう?」「生きる意味ってなんだろう?」とか、「時間ってなんだろう?」「言葉ってなんだろう?」などのいかにも「哲学的な問い」を持ち始めますが、答えが出ないことが多く、効率の面から考えるとあまり役に立つ気がしません。

〇そもそも小中高校で習う学校の教科の中には「哲学」という科目はありません。ただすべての科目のベースに「哲学」は潜んでおり、「哲学とは何か」という問いにひと言で答えるなら、「その様々な物事の本質をとらえる営み」と言えます。さらに過去の哲学者の多くは、自分の人生についてとことん考え、悩み、生き抜いた人たちであり、一般人である私たちも同様な壁に何度もぶつかって生きているのであり、その入り口が中学生時代です。

〇冒頭の中高生新聞に、哲学に関していくつかのQ&Aがありました。紹介します。

Q 哲学の道を究める人には、どんな人が向いていますか?

A あまのじゃくな人です。強大な力に迎合したくない人、みんなが良いというものに乗っかりたくない人には特におすすめです。哲学の本質は、「抵抗する姿勢」です。ひと味違うものの見方は、新しい思考に結び付きます。哲学は西洋でしかできないという人もいますが、最近は見直されています。

Q 哲学者ってどんな人だと思いますか?

A 「いろいろと難しい人たち」という認識がありますが、哲学者のエピソードはとても人間くさいです。例えばドイツのショーぺンハウアーは、出した思想本は凄くでも、彼の大学の講義は学生に不人気で誰も出席しなかったとか、中国の朱憙は自分の学問を広めるためにウソを平気でついたなど。あくまでも我々の生活の延長線上にある人だとわかります。

Q 哲学はどんな風に学ぶものなのでしょう?

A 誰かの考えたことを知るには、その先人たちまで追いかける必要があります。哲学者の多くは超がつくほどの読書家。それぞれが「哲学史」の研究者で、歴史の全体像をつかみ、自分なりの哲学を築いています。

〇何か新しいことにチャレンジする時に、「とりあえずやってみよう」というタイプの人と「まずは計画を立てよう」というタイプ人がいます。前者の人は経験主義タイプ、後者の人は合理主義タイプと言えます。私もそうですが時には、同じ人でもどちらの進め方が良いか分からず迷ってしまうこともあるでしょう。哲学を学ぶことで、このような迷いに対して、ひとつの結論を出すことができるかもしれません。

〇19世紀にフランスのロダンが制作した「考える人(The Thinker)」はとても有名です。このブロンズ像は、「死すべき者=人間の悲劇的な運命について永遠の思考を続ける普遍的存在」を表現し、そこには内的な苦悩と思索の激しさが形象化されています。授業中の中学生も深く考えている場面をみると、私はまさに「考える人だな~」と思っています。

須藤昌英

 

11月25日(月)挑戦をやめない生き物を人類と呼ぶ(超進化論)

〇野口聡一(元・JAXA宇宙飛行士)氏は、これまで3度(2005,2009,2020)も宇宙船に乗船した日本の英雄です。世界初三種類の宇宙帰還を達成し、ギネス世界記録(2部門)を持っています。彼が言った言葉に「進化とは自分の性能を上げるのではなく、自分を環境に合わせることだ」があります。

〇「成長と進化」は似ているようですが、成長とは、生物でいえば育って大きくなること。人間でいえば、いろいろな学びを通し、身体や心のスペック(性能)があがることであることです。一方で進化とは、生物では遺伝子レベルで変化を起こし、環境の変化に適合した生命体をつくりあげることであり、「成長」よりもより長いスパン(時間)での変化を「進化」と呼ぶのだと思います。

〇これは19世紀の自然科学者ダーウィンがその著書「種の起源」で、「唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」と指摘しています。進化は生物が生き残るために必要なことで、進化しない生物は滅んでいくという法則です。ただこの論理は、「すべての生き物は自分の種の保存だけを目的に争って生きている」という解釈になります。冷たい感覚が残ります。

〇2年前に放送されたNHKスペシャルの「超・進化論」は、それまで見ることができなかった生き物たちの驚くべき世界を、映像化していました。植物がまるでおしゃべりするかのようにコミュニケーションをしている様子や、幼虫からまるで違う成虫の姿へと大変身するサナギの中の透視映像は、世界で初めて撮影されたものでした。

〇私が印象に残っているのは、生き物たちは、厳しい生存競争を繰り広げる一方で、種を超えて複雑につながり合い、助け合って生きているという点でした。「人間は最も進化した生き物だ」という思いこみをやめて、今後はますます地球を支える「生物多様性の本当の姿」が今後明らかになってくると感じました。

〇具体例として2つありました。まず植物は人間が持つ目や耳のような感覚器官を持っているわけではないため、私たちは彼らを「ただ黙って立っているだけの、鈍感な存在」とも思ってしまいがちです。しかし、目も耳もなく動くこともない彼らは、しかし最先端の研究者たちからすると、むしろ逆で、植物は動けないがゆえに、周囲のあらゆる環境の変化を、時に動物以上に敏感に感じ取って対応している可能性があるというのです。

〇もう一つが、森の地下には、木と木をつなぐ巨大な菌のネットワークが存在していて、この目に見えない地下でのつながりは、遺伝子解析技術によって明らかになってきており、数十メートル離れた植物どうしが、同じ菌糸(細い糸状の菌)のネットワークでつながっていること。加えて植物が光合成で得た養分が、その菌糸のネットワークを介して、他の植物へと送られているという研究結果が発表されていました。

〇「生きるか・死ぬか」「食う・食われる」だけではない、このような植物の「支え合いの世界」のように、お互いに助け合って生きていることが「超・進化論」であるならば、我々人間も争うのではなく、一緒に生きていくことをもっと意識すべきだと視聴し終わった後に感じました。

〇冒頭の野口聡一氏の格言をもう一つ、「挑戦をやめない生き物を人類と呼ぶ」。いかにも宇宙飛行士らしい直球的な言葉です。「進化は自分を環境に合わせようとすること」と合わせると、真の挑戦とは、失敗を繰り返しながらも、決して自分のためだけでなく自分も含めた環境(家族、学校、地域、国家、地球など)を守り、自分の成長を通して他に貢献していく変化だと思います。

 須藤昌英

11月22日(金)令和7年度修学旅行・林間学校予察

〇来年度は3学年修学旅行と2学年林間学校ともに6月実施を予定しています。毎年のように2学期の期末テスト期間中に、来年度の宿泊を伴う学校行事の現地視察を、担当職員が旅行業者と行っています。

〇修学旅行の予察の主な目的は、生徒の安全確保や、保護者が安心してお子様を送り出せるようにトラブルの原因を事前に排除することです。

〇なぜテスト期間に行うのかというと、まず担当職員はあらかじめテストを作成しておけば授業を振り替えなくても済むということがあります。ただテスト前にテスト範囲の授業を完了しておかねばなりませんが、授業そのものをつぶしたり変更したりする必要がないのが利点です。

〇また旅行業者は今年の1学期に、複数の業者に入札させた上で決めています。2学期になり担当職員と旅行業者の打ち合わせを続けていますが、来る3学期にいよいよ主役の生徒たちの準備が始まります。となるとこの時期に現地や宿泊先を視察しておかなければ、時間的に間に合わないことになるからです。

〇大阪・京都方面の修学旅行は鉄道を使っての移動になりますので、視察のポイントとしては、乗降する駅のホームや通路の確認、特に新幹線内の座席配置、現地でのバスや地下鉄の交通状況、万博や有名な寺社等の見学先です。

〇特に修学旅行の2日目は、事前に決めた班別の自由行動の旅行プランで、学習テーマに沿って現地での取材をし、修学旅行後にまとめる学習活動を行います。ハプニングも含めて、生徒たちの良い経験になります。

〇長野・白樺湖方面の林間学校は貸し切りバスでの移動ですので、視察のポイントとしては、高速道路のサービスエリア(トイレの場所)、 ハイキングコースの危険個所、2日目3日目の農業体験等の受け入れ先団体との打ち合わせや施設の安全状況の確認です。

〇こちらも2日目に班ごとに茅野市周辺の農家に行き、朝から午後まで農業体験をするプログラムがあります。昨年も農家の人達との交流が深まり、お別れする際に涙ぐむ生徒もいました。一緒に身体を使った作業をしたり現地の暮らしの様子を教えてもらったりと、普段はなかなか出来ない体験があります。

〇共通して特に重要なのは、宿泊先近隣の病院の確認です。急病やケガで緊急搬送することもあります。長野は宿泊地が山の上なので、もしもの時は山を下って茅野市の病院に搬送します。一方で京都は大都会ですので病院も多いですが、意外に受け入れ先が限定されているので、事前の確認が必要です。

〇幸いなのは、修学旅行の旅館は昨年の3年生(現高校1年生)、林間学校のホテルは今年の2年生と同じことです。これにより、今までのデータ(部屋数と大きさ、トイレ数や浴場の大きさ、緊急避難経路など)がそのまま活用できますので、担当者もそれによってチェックできます。

〇細かいことですが、トイレならば個室や便器の数、浴場ならば脱衣場のロッカーやシャワーヘッドの数まで確認します。私も過去に何十回と修学旅行や林間学校の担当をしてきましたが、そういう配慮があって、当日はスムーズで快適に過ごせるのだということは、生徒たちや保護者の方々にも少し知っておいて欲しいと感じます。

〇過去には別の学校で、はしゃぎすぎてホテルの備品を壊し、その該当生徒とホテルの支配人に謝罪をしたこともありますが、今の富勢中にはそういう生徒はいないと思います。

須藤昌英

【3学年宿泊】

【2学年宿泊】

 

11月21日(木)2学期期末テスト(1・2学年)

〇今日と明日は、1学年及び2学年の期末テストが行われます。すべての学習の基本と目的は、「まず覚えられる範囲で基礎的な事項を覚えつつ、次に理解できた事項を確実にいつでも使える知識にする」ことです。

〇ホームページのトップに、各学年の出題範囲表を掲載していますが、生徒は授業の中で、各教科担任から出題範囲に関するもっと細かい説明を聞いていると思います。そして各自、教科書やノート、ワークや問題集などを使い、これまで準備を行ってきています。

〇脳の海馬については以前にも書きましたが、テスト準備の期間中もしっかりと睡眠を確保し、海馬の活躍に期待するのが鉄則です。昔から「一夜漬け」つまり直前に詰め込むやり方の是非が議論されてきましたが、「一夜漬け」のようなものを「集中学習」と呼ぶに対し、逆に毎日コツコツ勉強することを「分散学習」といいます。ただし「分散」とは注意力が散漫で集中していないという意味ではなく、時間を区切って少しずつ行うことです。

〇また学習とは、「ものごとの関連性を習得すること」でもあり、今まで独立していた事実が頭の中でつながることです。簡単な例では、「GO」と「行く」のように、英語と日本語の意味の結び付けを行うことがあげられます。このつながりを強固にするには、繰り返し「学び続ける」しかありません。

〇「上手に覚える」ような成功を導き出すためには、それだけ多くの失敗が必要で、記憶とは「失敗」と「繰り返し」で形成・強化されます。何度も失敗すると、それでやる気がなくなっていきそうになりますが、その解決策の一つが、「得意な面を活かして学習する」ことです。苦手な教科は誰にでもあるもので、その苦手分野でクヨクヨせず、逆に得意を素直に活かすと、全体として成績が上昇することが知られており、教育心理学では「特恵効果」といいます。

〇これはテスト当日にもあてはまります。テストを受けている際中、自分の得意な問題から手を付け、そこから自信がつくと、やる気や集中力が高まります。よく食事で、「美味しいものを最後に食べる」「美味しいものは最初に食べる」のような話がありますが、学習については圧倒的に後者が有利で、「得意なものは最初にとりかかる」です。

〇テストは通常、採点する側の便宜を図ることから、すべて100点を満点として作成していますが、当然生徒一人ひとりの学びの現状は異なります。であるならば満点を取ることが大切ではなく、各教科の理解度を自分で把握することが本来のテストの意義です。もっと言えば「テストはゴールではなく、スタート」です。

〇先日のリフレーミングで言うと、例えば結果として65点だった教科に対し、「あれだけ準備したのに、満点まであと35点も足りないもういいや・・」ではなく、「とりあえず6割強は理解できているので、まだ完全に理解できていない内容のどこから手をつけようか・・」のように思えることが重要ではないでしょうか。

〇3年生は同じ日程で実力テスト(基本的に詳細な出題範囲表はなく1・2年生の内容も含んだ総合的な問題)を行っています。生徒たちの健闘を校長室で祈っています。

須藤昌英

 

 

11月20日(水)「言葉の職人」のご逝去

〇現代を代表する詩人の谷川俊太郎さんが、今月92歳でお亡くなりました。谷川氏は1931年に東京で生まれ、高校時代に詩を作り始め、1952年、詩集「二十億光年の孤独」を発表しデビューしました。鋭いけれども誰もがもっている感性を大切にし、テンポのよいことばを連ねるなど、半世紀以上にわたり数多くの作品を発表し続けてきました。

〇私は若い頃から谷川氏の詩を、林間学校のキャンプファイヤーや3年生を送る会などで生徒に朗読させていました。とても平易な言葉ばかりですので、読んでいるうちに生徒たちはその独特の世界に引き込まれ、普段は見せない表情をしていたことをよく覚えています。

〇代表作の「生きる」の全文を紹介します。*下線は私がつけました。

生きる

生きているということ

いま生きているということ

それはのどがかわくということ

木もれ陽がまぶしいということ

ふっと或るメロディを思い出すということ

くしゃみすること

あなたと手をつなぐこと

 生きているということ

いま生きているということ

それはミニスカート

それはプラネタリウム

それはヨハン・シュトラウス

それはピカソ

それはアルプス

すべての美しいものに出会うということ

そして

かくされた悪を注意深くこばむこと

生きているということ

いま生きているということ

泣けるということ

笑えるということ

怒れるということ

自由ということ

 生きているということ

いま生きているということ

いま遠くで犬が吠えるということ

いま地球が廻っているということ

いまどこかで産声があがるということ

いまどこかで兵士が傷つくということ

いまぶらんこがゆれているということ

いまいまが過ぎてゆくこと

 生きているということ

いま生きているということ

鳥ははばたくということ

海はとどろくということ

かたつむりははうということ

人は愛するということ

あなたの手のぬくみ

いのちということ

〇以前より自分の解釈ですが、この詩のテーマは、「普段の生活(日常)にこそ生きていくことのすべて(意義)がある。そのことを再確認することが幸せを身近に感じる唯一の方法である」ではないかと感じていました。よく言われますが、十代の若者がこの詩に共鳴する部分ともっと年を重ねた大人が共鳴する部分は異なり、それが詩の素晴らしさではないかと思います。

〇谷川氏は十数年前のインタビューで、「詩というか言語というものは、われわれの世界を記述するのに、非常に不完全なもの。作品がうまくできれば満足だけど、それが真理を示しているとか、そんな気はまったくなくて、きれいで人が楽しんでくれればいい。芸術家というよりも言葉の職人っていうのかな。自分としては『職人』と言いたいんですよ」と答えています。

〇長年多くの詩によって勇気づけられたことに感謝しつつ、谷川俊太郎氏のご冥福を心よりお祈りいたします。

須藤昌英