校長雑感ブログ

6月22日(水)短期記憶から長期記憶へ

〇生徒たちは今、主に4月からの授業内容を復習し、明日からの期末テストの準備に追われています。授業をまわっているとよく、「私はあまり覚えることが得意ではありません」とか反対に「僕は自分で覚えやすい方法を考えて勉強しています」という生徒の声を聞きます。つまり授業で学んだことを、正確に「記憶」するということを重視しているということでしょう。

〇ところで「記憶」とは、脳科学的に言えば「脳内で新たな神経回路が形成されること」だそうで、ヒトの脳には、一説には1000億個もの神経細胞があるようです。そして記憶には、「短期記憶」と「長期記憶」の2種類があり、短期記憶とは、「脳の中に短期的に記憶しておく能力のこと」で、情報を一時的に保管することです。それに対して、長期記憶は、「情報を長期的に記憶すること」です。パソコンで例える(記憶とパソコンの仕組みはよく似ている)と、短期記憶がRAM(パソコンの中のデータを活用しパソコンにデータ保存するための領域)、長期記憶がHDD(パソコンの中にたくさんのデータを保存しておくための領域)といえます。

〇東京大学大学院の池谷裕二教授(日本の薬剤師、薬学者、脳研究者)は、その著書「受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法」で、次のような指摘をしています。少し長いですが、引用させてもらいます。

「人の脳の海馬という部分は、神経細胞の結合をつくる役割を果たしていており、『短期記憶から長期記憶』へと情報をつなげる中期記憶を担っています。海馬に入ってきた情報が溜まっている期間は、情報の種類によって異なりますが、短いと1か月程度です。海馬は情報を1か月かけて整理整頓し、『何が本当に必要な情報なのか』を選定しています。一日のうちに、新しい知識をあまりにもたくさん詰め込むのは避けたほうがよいですし、そもそも勉強は「復習」に主眼をおくべきで、覚えられる範囲をストレスなく覚えること、これが記憶の性質に適した学習方法です。比でいうと、『予習:学習:復習=0.5:1:4』が理想的です。」

「心理学者ビネーは、脳は入力よりも出力を重要視しています。海馬に『この情報はこれほど使用する機会が多いのか、ならば覚えねば』」と判断させること、つまり「詰込み型」よりも「知識活用型」の方が効率的だということです。ならば教科書や参考書を何度も見直すよりも、問題集を何度も解く復習法の方が良いでしょう。」

「ポイントは、『脳を上手くダマす』ことです。短期間の間に、同じ情報が何度も脳に入ると、海馬は『こんなに短期間のうちに何度も入ってくる情報なら必要なものに違いない!』と勘違いします。つまり、一定期間の間に何度も復習を繰り返すことで勉強した内容が長期記憶になるということです。」

〇要するに、授業で得た知識をただ漫然と覚えようとするだけでなく、口で言ったり手で書いたり、問題集でおさらいすることで、短期記憶の中から繰り返しアウトプットしたものだけが、長期記憶となり、すぐに忘れにくいものになっていくようです。

須藤昌英