校長雑感ブログ

11月20日(水)「言葉の職人」のご逝去

〇現代を代表する詩人の谷川俊太郎さんが、今月92歳でお亡くなりました。谷川氏は1931年に東京で生まれ、高校時代に詩を作り始め、1952年、詩集「二十億光年の孤独」を発表しデビューしました。鋭いけれども誰もがもっている感性を大切にし、テンポのよいことばを連ねるなど、半世紀以上にわたり数多くの作品を発表し続けてきました。

〇私は若い頃から谷川氏の詩を、林間学校のキャンプファイヤーや3年生を送る会などで生徒に朗読させていました。とても平易な言葉ばかりですので、読んでいるうちに生徒たちはその独特の世界に引き込まれ、普段は見せない表情をしていたことをよく覚えています。

〇代表作の「生きる」の全文を紹介します。*下線は私がつけました。

生きる

生きているということ

いま生きているということ

それはのどがかわくということ

木もれ陽がまぶしいということ

ふっと或るメロディを思い出すということ

くしゃみすること

あなたと手をつなぐこと

 生きているということ

いま生きているということ

それはミニスカート

それはプラネタリウム

それはヨハン・シュトラウス

それはピカソ

それはアルプス

すべての美しいものに出会うということ

そして

かくされた悪を注意深くこばむこと

生きているということ

いま生きているということ

泣けるということ

笑えるということ

怒れるということ

自由ということ

 生きているということ

いま生きているということ

いま遠くで犬が吠えるということ

いま地球が廻っているということ

いまどこかで産声があがるということ

いまどこかで兵士が傷つくということ

いまぶらんこがゆれているということ

いまいまが過ぎてゆくこと

 生きているということ

いま生きているということ

鳥ははばたくということ

海はとどろくということ

かたつむりははうということ

人は愛するということ

あなたの手のぬくみ

いのちということ

〇以前より自分の解釈ですが、この詩のテーマは、「普段の生活(日常)にこそ生きていくことのすべて(意義)がある。そのことを再確認することが幸せを身近に感じる唯一の方法である」ではないかと感じていました。よく言われますが、十代の若者がこの詩に共鳴する部分ともっと年を重ねた大人が共鳴する部分は異なり、それが詩の素晴らしさではないかと思います。

〇谷川氏は十数年前のインタビューで、「詩というか言語というものは、われわれの世界を記述するのに、非常に不完全なもの。作品がうまくできれば満足だけど、それが真理を示しているとか、そんな気はまったくなくて、きれいで人が楽しんでくれればいい。芸術家というよりも言葉の職人っていうのかな。自分としては『職人』と言いたいんですよ」と答えています。

〇長年多くの詩によって勇気づけられたことに感謝しつつ、谷川俊太郎氏のご冥福を心よりお祈りいたします。

須藤昌英